プロの意見

HOME > プロの意見 > 過去記事一覧 > 言葉 > 「北九州市における暴力団排除対策について」

言葉 ( 講演録等 )

平成22年全国暴力追放運動中央大会講演

「北九州市における暴力団排除対策について」

 北九州市総務市民局
安全・安心担当理事 原田大助

 


1.はじめに

 
 皆さん、こんにちは。福岡県の北九州市から参りました原田と申します。今年の3月から、福岡県警の暴力団対策部から北九州市に派遣されています。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず全国暴力追放運動中央大会の開催、そして各賞を受賞された皆様方、本当におめでとうございました。心からお喜び申し上げます。今日は、全国の暴排活動の中で、今、北九州が最もホットな地区であるということで、私がこの場に立っていますが、実は私は平成8年から3年間、警察庁の刑事企画課に勤務していまして、現在の暴対課の貴志課長と金澤理事官が、当時の上司であったということで、不肖の身でありながら、今日こういうふうにお話しさせていただくのも、これもまた何かの縁かなと思っています。
 またこの会場には、私が過去お仕えしまして数々のご薫陶を賜りました、福岡県警の元の本部長・警務部長もお見えになっていまして、若干緊張していますが、今日の私の話が少しでも皆様の役に立てばと思っております。どうぞよろしくお願いします。
 今日のポイントですが、三つあります。一つ目が福岡県、北九州市の暴力団情勢。二つ目が今年の3月に突如開設した工藤會の組事務所である長野会館をめぐる動き。三つ目が北九州市の暴力団排除対策について、お話をしたいと思います。


2.北九州市の概要

 
 まず北九州市ですが、九州の最北端に位置し、関門海峡を隔てて、山口県の下関市と接しています。人口は98万人。県庁の非所在地としては、西日本最大の都市となっています。昭和38年に、小倉、若松、戸畑、門司、八幡の5市が対等合併して以降、産業都市として着実に発展してきています。
 明治34年に、官営の八幡製鉄所を誘致して、その後は鉄の都として発展してきましたが、現在では左上にある若松区の響灘の埋め立て地には、リサイクルとか環境の関連事業が集まった北九州エコタウン、また左下の製鉄所の周りには、エネルギー関連施設が、さらに市の周辺には、トヨタ、日産等の自動車関連工場が建設されるなど、今では環境とものづくりに関して、世界に誇れる技術が集積した都市になっています。
 明治以降、発展していくなかで、九州各地あるいは中国・四国地方から、多くの人々が職を求めて北九州市に集まってきました。こういう人たちは港湾や炭坑、土木といった、いわゆる体を張った仕事に従事していました。
 北九州には「川筋気質」という言葉があります。この川筋というのは、筑豊地区から洞海湾に注ぐ遠賀川の流域のことを言いますが、かつて筑豊地区の筑豊炭坑では、石炭をこの遠賀川に浮かべた船に載せて、火野葦平の『花と龍』で有名な、日本一の石炭積出港、若松港まで石炭を積み出していたというわけです。
 この遠賀川の流域、川筋においては、まさに死や事故と隣り合わせの非常に過酷な労働に従事していて、そういった環境や風土が、義理と人情、度胸を重んじる、あるいは連帯感を重んじるような、川筋独自の男らしい、男っぽい川筋気質が生まれていった、そしてその川筋気質が、良くも悪くも現在の北九州の精神風土として引き継がれていると聞いています。


3.福岡県の暴力団情勢

 
 次に県内の暴力団情勢です。ご案内のとおり、全国には22の指定暴力団があります。このうち福岡には四代目工藤會、道仁会、太州会、三代目福博会と平成18年5月に道仁会から分裂した九州誠道会の5団体の指定暴力団があり、警視庁の4団体よりも多く、全国最多の指定暴力団数となっています。
 次に県内の暴力団勢力ですが、約180組織、3470人の暴力団員がいます。また、ご覧のように福岡県は、福岡地区、北九州地区、筑豊地区、筑後地区と、4地区に大別されますが、この4地区それぞれに暴力団が存在するという特徴があります。北九州地区は、四代目工藤會が単一の組織でありまして、構成員、準構成員合わせて約1100人と、九州最大の勢力を有しています。
 これは暴力団によるとみられるけん銃発砲事件の件数です。赤が福岡県、グレーがその他の府県ということで、福岡県がいかに多いかがわかると思います。実は平成16~20年の5年連続で発砲事件の数が全国最多。昨年は4件の発生でしたが、今年はすでに8件、発砲事件が発生しています。
 次に、今年の4月に全国で初めて、罰則つきの福岡県暴力団排除条例を施行しましたが、これについて若干説明をします。まず県条例が制定された背景ですが、今話したように、指定暴力団の数が全国最多、あるいはけん銃発砲事件が非常に多いことのほか、覚醒剤やシンナー、売春など、子どもたちが暴力団の餌食になるような犯罪が多発をしている。あるいは暴力団の威力を利用し、暴力団に資金を提供するといったような、暴力団を容認する社会的な風潮がいまだに見られるということで、暴力団が県民生活に脅威を与え、あるいは企業の誘致など、社会経済活動の健全な発展に著しく悪影響を及ぼしているということで、暴力団排除条例が制定されたわけです。
 暴力団対策の課題は二つあると言われています。一つは、暴力団に資金を提供する者の存在。もう一つが、暴力団を容認する社会環境。この課題を克服するために県の条例は制定されましたが、そのねらいは二つです。一つめは、暴力団への資金の流れを遮断して、資金源をシャットアウトすること。もう一つは、子どもたちに教育を行って、暴力団への加入の阻止をすることです。
 県条例の概要は、お手元にパンフレットをお配りしています。これにいろいろ書いていますが、大きく分けて五つあります。このうち、主なものを説明したいと思います。
 まず、青少年に対する教育の関係です。これは、学校や図書館などの200メートルの区域内に、暴力団事務所を新設してはいけないということ、あるいは学校に赴いて、暴力団の悪性を浸透させて、子どもたちが暴力団の被害に遭わない、あるいは暴力団に加入しないようにすること。
 次に、事業者が暴力団の威力を利用したり、暴力団に協力をしたり、あるいは暴力団の活動を助長するような目的で取引をする、あるいは資金提供をするといったことを禁止すること。
 それから不動産関連ですが、契約をするときに、組事務所に使用されないかどうか、利用目的を確認すること。あるいは組事務所に使用されることを知って、売買や契約を行ってはならないなどです。条例にはこういった内容が規定されています。


4.北九州市の暴力団情勢

 
 次に、北九州市の暴力団情勢についてです。先ほど申しましたように、北九州市に存在する暴力団は、工藤會のみです。工藤會の組織ですが、会長、理事長の下に会の意思決定機関である10人の組長からなる執行部というものがあります。昨年9月以降、この10人の執行部のうち5人を詐欺等で逮捕しており、一定のダメージを与えることができたと思っています。
 これは工藤會の本部事務所である工藤會会館。小倉北区の中心地に開設しています。これは四代目会長の家です。通称本家と呼ばれています。本家の敷地内には当番の待機所等がありますが、この待機所等が一般住宅と思っていただければ、この本家の広大さがイメージできるかなと思います。
 次に、工藤會の悪性について若干説明します。これは、企業等に対する発砲事件ですが、ブルーの部分が北九州地区。いかに北九州地区に発砲事件が多く発生しているかがよくわかると思います。平成18年以降、26件発生していますが、このほとんどに工藤會が関与していると見て、警察で捜査しているところです。
 また、工藤會は暴追運動に対して執拗な攻撃を行う集団です。ここにいろいろ書いていますが、これ以外にも過去に北九州市議会議長宅への発砲事件も発生していますし、警察の常任委員宅に対する発砲事件なども起こしています。
 さらに、工藤會は組織の意向に沿わない組員を攻撃し殺しています。実は平成20年に、先代の会長が死んだのですが、その途端、親先代会長派に対する攻撃が始まりました。ここに書いている以外にも、組長宅に対する発砲事件や殺人未遂事件等も発生しています。
 そして、工藤會が攻撃するのは、善良な企業や市民の皆さん、あるいは暴力団だけではありません。警察に対してもです。ご覧のように、四課のOBの家に火をつけて全焼させるとか、あるいは警察の官舎にとめていた車に爆弾を仕掛けるといった事件を起こしています。
 これらのほか、平成20年に世界のトヨタ、トヨタ小倉工場に対して、2発の手榴弾を投げ込む事件が発生しましたが、これも工藤會の犯行ではないかと見て警察で捜査しています。真ん中の新聞に書いているように、これはトヨタ自身をねらった犯行ではなく、トヨタの工場を建設していた大手の建設会社があるのですが、この建設会社がみかじめ料を払わないということで、トヨタに建設工事をやめさせろなどという脅迫文を送ったり、手榴弾を投げ込んだと見て警察で捜査をしています。日本全体に衝撃を与えた事件で、福岡県や北九州の企業誘致に大変悪影響を及ぼすこととなった事件でした。
 そして、工藤會の悪質性を最も象徴する事件が、平成15年8月18日に小倉北区の繁華街で発生した、当時の暴追リーダーの方が経営していた「クラブぼおるど」という店に手榴弾を投げ込んだ事件です。これは店内の状況です。左上の黄色の矢印の裏の部分が、右側の写真です。右の写真は男子便所で、便器が二つあったのですが、粉々に粉砕をしています。
 この事件では11人の負傷者が出ました。幸いにして死者は出ませんでしたが、それは不完全爆発であったからです。この赤丸印をよく見ていただくと、壁に黒い色がついていますが、この黒い部分は煤です。不完全爆発だったから煤がついた。これがもし完全爆発をしていれば、何十人という死者が出たという、非常に凶悪な重大な事件でした。
 この「クラブぼおるど」に対しては、この事件の1年前には「ぼおるど」の店内に糞尿をまく事案。3カ月前には支配人を刃物で刺すという事案。「ぼおるど」事件後、何とか頑張って店を再開されたのですが、その1カ月後には、店にけん銃の実砲が送られてくるという事件が発生して、経営者の方はやむなく店を閉店し、今は駐車場になっています。


5.暴力団事務所「長野会館」をめぐる動き

 
 次に、ポイントの二つ目、工藤會の組事務所、長野会館をめぐる動きについて説明します。現在、北九州市では、警察、行政、市民の皆さんが一体となった暴排活動が非常に盛り上がっていますが、そのきっかけとなったのが、この工藤會長野会館の開設問題です。
 これはその長野会館の写真です。北九州市の小倉南区の閑静な住宅街にあった会社の社長の家を工藤會が買い取りまして、今年3月5日に突如、「四代目工藤會長野会館」と書いた看板を掲げました。
 ここは目の前に幼稚園があり、150メートル先には小学校があるという場所です。小学校の生徒は、この会館の前を通って、大半が通学をしています。
 県条例では、先ほど若干説明しましたように、学校等の200メートル以内の区域内には暴力団事務所を新設してはならないという規定がありますが、まさにその県条例の施行前に、駆け込み的に出した事務所ではないかと推測されます。
 この長野会館の設置を受けて、地域の住民の方が勇気を持って立ち上がりました。この写真は会館設置1週間後の3月12日に、会館の近くの駐車場で暴追大会を開いたときの会館の前の写真です。暴追大会の後に、この長野会館の前までパレードをする予定でしたが、パレードを行う際に、こういうふうに組幹部約70人が門の前に整列をして、パレード部隊を威嚇するという非常に悪質な行動に出ました。
 そのときの状況を動画で見ていただきたいと思います。
 (ビデオ上映)
 長野会館上空で撮った映像ですが、下の赤の丸印が工藤會組員が集結しているところ、青の丸印が警察部隊がこれを警戒している状況です。
 当初、会館の前までパレードする予定でしたが、ああいう形で威圧していましたので、会館の手前50~60メートルで、こういう形でパレード部隊が立ち止まって、シュプレヒコールを挙げました。
 このような組員がパレード部隊を威圧するような行為について、暴対法に基づいて、事務所における禁止行為違反ということで、全国で初めて口頭で中止命令を発出しています。
 さらに12日の暴追大会の後の15日には、暴追リーダー宅に対して6発の銃弾を撃ち込むという卑劣な事件が発生し、その発砲事件の2週間後には、暴追運動の先頭に立って頑張っている北橋市長に対して、脅迫文を送りつける事件も発生しています。
 こういった悪質な行為にも恐れることなく、3月12日に引き続き18日には、住民650人、そして30日には住民1800人が参加して、暴追大会、暴追パレードを実施しました。
 また、北九州市議会でも3月29日に、暴力追放に関する決議を、全会一致で議決をしていただいています。
 このような住民の立ち上がりによって、「四代目工藤會長野会館」と書かれた看板は、今は「長野倶楽部」という看板に変わっていまして、また当初、非常に組員の動きが活発だったのですが、今は組員の動きも沈静化しているという成果が上がっています。
 一方で、地域の住民あるいは子どもたちの安全対策として、市と県警で協力をして、通学路に防犯カメラ6台を設置し、そして幼稚園の協力を得て迂回路を設置し、警察では信号機を2台設置し、市の方で会館の前にプレハブ小屋を建てて、それを警察官立寄所として警察に提供して、今は毎日3人の警察官が24時間態勢で長野会館の監視を行っています。
 そしてこの立寄所とその周辺には、県の暴追センターから費用を出していただいて、防犯カメラ2台も設置しています。
 これは警察官立寄所の警戒風景です。
 これは迂回路の状況です。
 さらに警察では暴力団対策法に基づいて、暴追パレードで長野会館の撤去請求を行った市長等に対して、市長等を威圧するような行為をしてはならない、あるいはその家族につきまとってはならないという、事務所撤去請求の妨害防止命令を4月に発出しました。
 この防止命令も全国初で発出したのですが、その後、けん銃発砲事件等は起こっていませんし、目立った動きもないことから、この防止命令が工藤會の動きを封じ込めるのに、極めて有効な手段になっていると考えられます。
 今現在、工藤會の動向は沈静化していますが、いつ何が起こるか分りませんので、油断をすることなく、警戒感を持って事に当たっているところです。


6.北九州市における暴力団排除対策

 
 次にポイントの三つ目、北九州における暴力団排除対策について説明します。

(1)今春までの取組
 北九州市ではご覧のように、従来からさまざまな取り組みを行ってきました。まず市発足の翌年の昭和39年には、いろいろな業界団体や市民団体から構成される北九州市暴力追放推進会議を設置して、行政対象暴力や企業からの暴排、あるいはさまざまな広報啓発活動等に取り組んできました。
 そして昭和62年には、全国に先駆けて民事介入暴力の相談窓口として、民事暴力相談センターを設置しています。この民暴センターには市の職員のほか警察官OB3名を採用して、この3名がさまざまな相談に対応し、平成16年からは弁護士会とも連携して、月に2回、無料の弁護士相談も行っています。
 さらに平成元年からは、警察との連携を一層緊密にしていこうということで、所属長級の警視の警察官1名を北九州市に派遣しています。これは私で12代目になります。
 そしてまた昭和56年には、全国に先駆けて指名停止要綱の中に、暴排条項を盛り込みましたし、平成元年からは3億円以上の大型公共工事、今は額を下げて2億円以上としていますが、この大型公共工事を対象として、警察、行政、元請業者、そしてすべての下請業者が一堂に会して、暴力団排除を確認する会議、私どもは暴排北九州方式と言っていますが、この会議も開催しています。

(2)県・県警との連携
 これから先は、今年3月以降の取組について説明します。まず福岡県、警察との緊密な連携についてです。ご覧のように3月以降、これまで以上に県あるいは警察との連携を取ってきましたが、このうちいくつか紹介すると、4月13日には安藤警察庁長官が北九州市にお見えになって、長野会館等の視察をされ、また市長や住民の方と面談をされ、さらには捜査員に対して激励の言葉をいただいています。
 市長との面談においては、北九州市の暴排運動を全面的に支援していくという、本当に力強い激励の言葉をいただきましたし、捜査員に対しては北九州の工藤會対策が、全国の暴力団対策の天王山になるというお言葉をいただきまして、捜査員一同、身の引き締まる思いがし、工藤會撲滅に向けた闘志が、一層盛り上がったわけです。
 さらに5月22日には市内において、知事、市長、本部長、それから地元の経済界代表の4者が一堂に会して、極めて異例の工藤會対策トップ会議を開いています。この会談においては、長野会館対策や資金源対策、あるいは住民の安全・安心の確保など、5つの項目について、共同声明を発表して、この4者が認識を共有して工藤會対策に取り組むこととしたわけであります。

(3)北九州市暴力団排除条例
 次に、今年7月に施行しました北九州市暴力団排除条例について説明いたします。4月に県条例が施行されたことを受けまして、全県下的に暴力団排除の気運が盛り上がってきました。福岡県には60の自治体があるのですが、60のすべての自治体において、県条例で同じような条例を制定しましたが、我が北九州市は、ほかの市町村にはない特徴点がいくつかあります。
 一つ目は、先ほど説明した「ぼおるど」事件を風化させないように、毎年8月18日を市民暴排の日と規定して、市民全体で行事を行っていこうということとしました。
 二つ目は、どの自治体の条例でも、市とか市民等の役割を条例の中で規定していますが、我が市では、行政、市民、事業者が一体となって、暴排運動を進めていこうという、その姿勢を強調するという意味で、役割ではなくてここに書いてあるように「責務」という表現を用いています。

(4)県警との協定と市の事務事業からの排除
 次に、市の事務事業からの排除についてです。これまでは公共工事等、市の事務事業については、個別に県警と協定書を結び、警察に対する暴力団情報の照会や県警からの情報の提供、これを行ってきていて、基本的にはここに書いているような7つの事業に限られていたわけです。
 しかしながら、外郭団体も含むすべての市の事務事業から暴力団排除を徹底していこうということで、今年の8月に1本の協定書で情報提供、情報の照会等に対応できるように、新たに協定書を結び直しました。
 そして、暴力団の介入が予想される事務事業に関しては、その運用規定の中に暴力団排除条項を盛り込む作業を今、まさに行っているところです。
 市条例を制定した7月以降に、市の事務事業から排除したものをいくつか紹介をしたいと思います。一つめは今年の7月1日に、小倉北区内の某葬儀場において、先代会長の三回忌が行われました。これは組員約250人が集まって行ったわけですが、県警ではその葬儀場に対して、組葬として使用させてはならないという事前の指導を行っていましたが、葬儀場がこれに従わず、組葬と知りながら貸したわけです。これは、暴力団の活動を助長するという県条例違反に該当しますので、県警から葬儀場に対して警告を行っています。
 そして、実はこの葬儀場は、北九州市の厚生事業の指定業者であったのですが、県警からの通報を受けて、厚生事業からの指定を解除しています。
 また工藤會と密接な交際を行っていた建設業者が、公共工事の下請けに入っていたということで、元請業者を指導して、公共工事の下請けから排除した事例もあります。
 三つ目は、保健福祉事業からの排除です。これは工藤會ではないのですが、筑豊地区に太州会という指定暴力団がありますが、ここの組幹部に対して、会社の社長など約30人が、桜会という組織をつくって、毎月みかじめ料を納めていたのが、県警の捜査によってわかりました。
 実は、この桜会の中心人物が経営する介護サービス事業が、市の指定を受けていたということで、現在、補助金停止などの措置を検討しているところです。
 こういったように県条例、市条例が施行されて、また新たに協定書を結び直したことによって、これまで排除が難しかったかもしれない分野、あるいはすき間を縫って入り込んでいたかもしれない分野にまで網を張ることができて、従来以上に徹底して市の事務事業から暴力団を排除することが可能になったのではないかなと考えています。

(5)青少年に対する教育の実施
 次に、青少年に対する教育の実施についてです。先ほど若干説明しましたが、県立と私立の中学、高校については県条例に基づき、北九州市立の中学、高校については市条例に基づいて、それぞれ暴力団の排除教育を今、行っているところです。
 市内には中学校が103校、高校等が50校ありますが、警察や教育委員会と連携をして、個々の中学、高校に警察官が赴いていって、「暴力団の被害に遭わないようにしようね。暴力団に入ってはいけませんよ。」という教育を行っているところです。
 これは子どもたちからも学校の先生からも、暴力団の実態が非常によくわかった、あるいは暴力団の被害に遭わないように注意しなければいけないなということで、大変好評を得ています。これは来年3月までにすべて一巡をし、また来年度以降も継続をして教育を行うようにしています。
 中長期的になるかもしれませんが、教育を進めることによって、暴走族が減っていく、そして暴力団が減っていく、またさらには犯罪者も減っていくのではなかろうかと期待をしています。

(6)住民と協働した暴追運動の展開
 次は住民と協働した暴追運動の展開についてです。北九州市では今、各地で暴追運動が盛んに行われていますが、その主なものをいくつか紹介をしたいと思います。まず市条例が制定された直後の7月16日に、住民の方1100人が集まって、市民暴追決起大会を行いました。これでは私が市条例の概要を説明し、そして北九州で民暴弁護士として長年頑張っていただいている、内川弁護士にお見えになっていただいて、事務所撤去請求を中心とした講演を行っていただいています。
 さらに北九州市では、昭和63年から「わっしょい百万夏まつり」という市民の祭りを行っていますが、今年の8月の「わっしょい百万夏まつり」には、今年初めて市議会議員、市の職員、警察、市民から構成された「福岡県から暴力団をなくすっ隊」を編成して、この祭りのオープニングパレードに参加をして、祭りに来ていた多くの市民の皆さんに、暴力団の排除を強くPRしたところです。
 さらに市条例の部分で説明したように、毎年8月18日を市民暴排の日と規定しましたが、今年の8月18日には、先ほど見ていただいた工藤會会館のすぐ近くの北九州メディアドームという競輪場で、暴追大会を開催しました。
 この大会には警察庁から貴志暴対課長に来ていただいて、お話をいただいたほか、鹿児島のほうで熱心に暴追運動に取り組まれている妹尾様などをお招きして、講演をいただきました。
 この大会は、過去最大の2000人の住民の方が集まりまして、大会終了後はメディアドームから工藤會会館まで、シュプレヒコールをあげながらパレードを行いました。そのときの状況を動画で見ていただきます。
 (ビデオ上映)
 奥がメディアドームで、左側が工藤會会館です。工藤會会館の門扉がきっちり閉められている状況がわかると思います。
 今、8月18日の大会の状況を見ていただきましたが、この写真はその半年前の2月18日に、同じメディアドームで暴追大会を行って、工藤會会館の前をパレードしたときの状況です。ここで注目していただきたいのですが、2月は会館の門扉を開けて組員がパレード部隊を威嚇するような行動に出ていますし、さらに、このパレードの状況をビデオ撮影する組員までいました。
 2月の段階ではこのように極めて先鋭的、攻撃的だった工藤會が、8月の段階では全く動きを見せなかった。この写真を見ていただければ、県警の強力な取り締まりのほかに、半年間市民全体で一生懸命頑張って暴追運動を行った成果が一目瞭然ではないかなと思います。
 北九州では今年に入って、今見ていただいたものも含めて、これまで合計48回、1万6000人の方が参加をして、暴追大会や暴追キャンペーンを行っています。

(7)事業者による自主暴排活動の推進
 このほか、県警と協働して、土木とか建設業界以外のさまざまな業界にも働きかけをして、約款や規約の中に、暴力団排除条項を盛り込んでいただきたいというお願いをしています。これまで徐々にではありますが、成果が表れてきたなと実感をしているところです。
 いくつか紹介をすると、これは組名義で中元の発送を頼まれた大手の宅配業者が、県条例に抵触するのではないかということで、宅急便約款の中に、暴力団からの引き受け拒否という項目を盛り込んで、そして工藤會からの中元の発送を拒否したというものです。この結果、工藤會は他県から中元を発送したと聞いています。
 この宅配業者以外にも運送業界全般で、暴力団排除に取り組んでいこうという動きがなされているところですし、この運送約款については、国が改正を検討しているということも聞いています。
 次は、高速道路公社が運営をしていた駐車場、ここに工藤會の組の幹部が12台分の駐車場を契約していたのですが、高速道路公社で契約条項の中に暴力団排除の条項を盛り込んで、工藤會の幹部が、今回は暴排条項が盛り込まれたということで、契約を断念したこともあります。
 また、北九州市のタクシー協会では、十数台のタクシーを組事務所の前に配車をしたり、あるいはチケット契約をするといった実態があったことから、タクシーの大量配車やチケット契約に応じない方針も打ち出しています。
 これ以外にも、事業者が規約、規則の中に、暴排条項を盛り込んで、県条例、市条例を根拠にして、さまざまな業界の中で、暴力団との取引を断る動きが広く浸透してきている状況にあります。
 現在、条例制定の動きが全国的に高まっていると聞いていますが、全国に条例が制定されて、福岡県と同じような動きで進んでいけば、暴力団に対して、相当大きな打撃を与えるのではないかと思っています。

(8)今後の取組
 今後の取組としていくつか列挙していますが、特に今後は、市民の暴排意識の高揚ということで、いろいろな業界や業種別の暴追大会を行うといった工夫を凝らして、より多くの市民の方に暴追運動に参加していただく、あるいは裾野を広げていくといった取組をやっていかなければならないなと思っています。
 そして、やはり保護対策を徹底していかなければならない。何と言っても保護対策です。
 暴追運動を行ううえでは、保護対策は必要不可欠です。県警では、かなりの数の暴追関係者等に対して警戒を行っていますし、北九州市では防犯カメラを設置したり、あるいは非常通報装置を準備をして、関係者に貸与するなどしています。県条例においても、警察による保護措置という規定を明確に規定しています。やはり暴追運動が盛んになればなるほど、徹底した保護対策を実施していく必要があると思っています。

(9)根源対策
 そして、暴力団の排除には、暴力団を拒絶する社会をつくらなければいけない。やはり根源対策が必要ではないかと思います。つまり、警察の取締りによって検挙するだけではなくて、ここに書いているように、住民と協働した暴追運動を継続して行う、資金源対策も行う、そしてまた子どもたちに対する教育も行うといった総合的、根源的な対策が必要になってくると思っています。
 これまでは主として、警察の取り締まり対暴力団といった構図でしたが、県条例、市条例ができたことにより、社会全体で暴力団を排除していく、社会から暴力団を孤立化していくという仕組みができあがりまして、暴力団の社会からの締め出しが、少しずつですが現実のものとなってきています。

(10)治安に与える暴力団対策の効果
 若干話はそれますが、福岡県警では5~6年前から暴力団対策を強力に行ってきました。そのいい影響がかなり出てきたかなと思っています。それは何かというと、刑法犯の発生件数は、平成14年が戦後最高であったのが、昨年は平成14年の犯罪の発生件数の半減をした。今年もまた、10月末現在で、昨年よりもマイナス8%、5700件減少しています。さらに交通死亡事故も、昨年は県内では史上最低の195人となっています。この死亡事故も、10月末現在でマイナス13%、20人の減少となっています。
 暴力団と交通死亡事故、何が関係あるのかと思われるかもしれませんが、ご案内のとおり、暴力団はコンビニ強盗もやりますし、ひったくりもやります。はなはだしいものについては、万引きとか無銭飲食とか、こういった犯罪を起こしますし、飲酒運転や無免許運転を起こす、また交通事故も起こす確率が高いと言われています。
 ここ数年来行ってきた暴力団対策が、犯罪の抑止、あるいは飲酒や無免許を原因とする交通死亡事故抑止に、非常に大きな成果が出ているのではないかと言われています。


7.終わりに

 
 最後になりますが、北九州市は非常に人情も厚い、食べ物もおいしい、観光地も多い、本当にいい都市です。ただ1点、工藤會の存在がなければです。工藤會の撲滅は、一朝一夕にはならないかもしれませんが、行政、警察、市民、そして暴追センターと弁護士会が、それぞれできることをやる。そして相互に連携、協力して、社会全体で暴力団を排除していく活動を継続していく。まさに、先ほど表彰を受けられた標語、「暴力に 打ち勝つ力 地域力」、これを進めていけば、必ず暴力団のいない、安全で安心できる地域社会が実現できるのではないかと思っています。
 市条例、県条例の制定を機に、北九州市長はじめ、北九州市民全体で、これまで以上に暴力団排除対策を進めて参りたいと思いますし、私個人としても、福岡県、北九州市が暴力団に負けたら日本全体の明日はないという決意で、これからも頑張っていきたいと思っていますので、暴追センター、警察庁の皆様をはじめ、本日お越しの皆様方のご支援とご協力を賜りますよう、厚くお願い申し上げて、はなはだ恐縮ですが、私の話を終わらせていただきます。
 本日はご清聴ありがとうございました。
 (拍手)